食後の胃の不快感はピロリ菌が原因かも

従来、胃炎や胃潰瘍の主な原因は塩分の多い食事やストレスと考えられてきました。その背景には人間の胃は強い酸が分泌されているため、強酸性に保たれており、病気を引き起こす細菌が生息するのは不可能と考えられていたという事情がありました。

食後の胃の不快感

しかし、ウォーレンとマーシャルという二人の医師は、胃の中に螺旋型の細菌、すなわち「ピロリ菌」が住んでおり、これが胃炎や胃潰瘍の原因であることを突き止めたことで従来の主張は大きく変わりました。ピロリ菌は、尿素を分化してアンモニアをつくるウレアーゼという酵素を生成しますが、こののアンモニアが胃の中の塩酸を中和することで、強酸性の環境の中でも生きていけるのです。

ピロリ菌の発見者の一人であるマーシャルは実際にピロリ菌を飲んでみて、自身の胃に炎症が起きることを証明しました。当初は特殊内縁の一つの原因に過ぎないと正当な評価が与えられなかった二人の研究でしたが、ピロリ菌の感染こそが胃潰瘍の最大の元凶であることがわかり、2005年のノーベル医学賞を受賞しました。

ピロリ菌が胃潰瘍の最大のリスクファクターとなることを発見したことが、どうしてノーベル医学賞を受賞するほどの偉大な成果であるかというと、原因が細菌ならば抗生物質の開発により胃潰瘍を簡単に治療できるようになるからです。

従来、重症の胃炎や胃潰瘍の患者さんには外科手術を行うことも少なくありませんでしたが、現在では抗生物質(アモキシシリン、クラリスロマイシン)を組み合わせたうえで、胃酸の分泌を抑制する薬と服用するだけで高い治療効果をあげられるようになりました。手術は心身の大きな負担をかけますが、抗生物質の服用はそんな心配もなく、胃潰瘍患者の80%以上は抗生物質の服用で治癒しています。

ピロリ菌は十二指腸潰瘍の大きな原因となることも研究によってわかってきました。さらに大規模な調査研究などによって、ピロリ菌は胃がんの発症にも深い関係があることが判明しました。国立がんセンターの津金昌一郎博士らの研究では、ピロリ菌に感染していると、感染していない人に比べて胃がんのリスクは5倍上昇することがわかっています。

ピロリ菌の感染=胃潰瘍や胃がんになるというわけではありません。実際にピロリ菌に長年感染していても、消化器の病気とは無縁に一生涯を過ごす人も大勢います。しかしピロリ菌に感染している人の方か、明らかに胃潰瘍や胃がんになるリスクが高いことがわかっています。

従来はピロリ菌の除菌は保険適応のハードルが高かったのですが、現在では胸焼け、胃の不快感などの症状が長引く慢性胃炎と診断された患者さんでも保険で除菌が可能になりました。除菌に使用する抗生物質は下痢などの副作用がありますが、完全に飲み切れば、90%以上の人ピロリ菌を完全に除菌することができるとされています。